輪の国びわ湖推進協議会と周辺のエコ交通プロジェクト
高度成長期以降、日本は自動車中心の都市政策を推進してきました。
クルマがあふれることによって、騒音や排ガス、交通事故の問題が起こりました。
クルマでの来店を前提とした大型店が郊外に立地するようになり、中心市街地は寂れ、郊外はどこも同じチェーン店が並ぶつまらない場所に変わりました。
乗り手のいなくなったバスや電車の地方路線は廃止され、クルマがないと暮らせないようになりました。
皆がクルマで移動するため、まちはどんどん外へ外へと広がっていきました。広い範囲の住環境を整えるためには多額の税金が必要です。人口減少の時代に入り、労働人口が減り続けていく中、維持は困難になっていくでしょう。
さらに、日本の部門別CO2排出量を見ると、総排出量11億9000万トンのうち運輸部門が17.9%を占めています。そのうちクルマによるものが86.2%です(2017年度)。一人あたり同距離の移動を見ると、クルマ移動によるCO2排出量は、他の交通機関に比べて格段に多いのです。
私たちのまちは、暮らしは、これでよいのでしょうか。
滋賀県はクルマ社会です。大阪と京都で育ってきた私の目から見れば、歩いて行ける距離でも公共交通で便利に行ける場所にもクルマで出かけ過ぎているように思えます。
そこで、使う必要のない場面でのクルマ利用を減らすように、移動のエコ化をめざして、活動を始めました。
1.輪の国びわ湖推進協議会
輪(わ)の国びわ湖は、自転車の活用によって環境と健康にいい滋賀をつくるために2009年に設立した民間の自転車まちづくり団体です。設立時からメンバーとして参画し、びわ湖一周サイクリング(ビワイチ)をきっかけに自転車を積極的に活用するようになる人を増やすための活動を行っています。
輪の国びわ湖は、滋賀プラス・サイクル推進協議会の事務局運営に参画し、滋賀県蒲生郡日野町の「わたむき自動車プロジェクト」推進協議会にも参加しています。
輪の国びわ湖推進協議会 https://www.biwako1.jp/wanokuni
2.一般社団法人 滋賀グリーン活動ネットワーク・エコ交通研究会
滋賀グリーン活動ネットワーク(SGN)は、企業や行政団体、市民団体等が480ほど参加する環境団体です。会員の自主的な活動による四つの研究会があり、そのうちの一つが「エコ交通研究会」です。
2011年に「エコ通勤研究会」を当時の輪の国びわ湖推進協議会会長が立ち上げかけて一旦休止し、2017年夏から再始動しました。翌2018年にエコ交通研究会と名称を変えています。研究会の事務局を輪の国びわ湖が担い、輪の国びわ湖では私が担当を務めています。
研究会の目的は、「通勤における自動車の利用を公共交通および自転車、カーシェアリング等の環境配慮型の交通利用にシフトすることで、交通部門のCO2排出量を削減する。これにより個人の自動車利用が当たり前という現代のパラダイムを転換し、通勤以外の移動の場面においても公共交通および自転車等の交通分担率を上げ、滋賀社会の低炭素化に貢献する」こと。
「かしこいクルマ利用」を進めるエコ通勤やエコ交通を広め、取り組む事業所を増やすため、毎年1回の公開セミナーの開催などを通じた普及啓発を行っています。
滋賀GPN News 第35号(2019.3)(5ページ参照)
【第1回公開セミナー】(2017.11.27)
「エコ通勤で経営をステップアップ! 効率的に健康的に環境配慮型に
組織が変わる『エコ通勤優良事業所認証』取得のススメ」
【第2回公開セミナー】(2018.10.4)
「交通シフトでSDGsを実現しよう! 温暖化対策も社員の健康・満足度向上も」
【第3回公開セミナー】(2019.9.17)
「交通エコ・シフトで進める温暖化対策と健康経営」
【第4回公開セミナー】(2021.3.16)
「ポスト・コロナ時代に向けて 持続可能な交通とまちづくりを考える
事業者、行政、市民が今やるべきこと」
3.自転車通勤の普及
エコ交通研究会の活動を進めていくうち、輪の国びわ湖と滋賀県交通戦略課との協働で、エコ通勤の推進と健康増進を目的に自転車通勤を普及しようと、「滋賀県自転車通勤モデル事業(体験事業)」が2019年から始まりました。
希望する事業所にスポーツバイクを貸し出し、従業員の方に自転車通勤を実践いただきます。参加者の健康測定等を行い、心身の健康に与える状況を調べたところ、下半身の筋力アップと頭が冴えるなどのメンタル面での改善が見られました。元はマイカー通勤だった参加者のほぼ全員から好評いただき、実際に自転車通勤に移行する人も現れ、自転車通勤の良い効果が確認できました。
この事業の成果を受け、2020年2月にシンポジウムを行いました。ここでは自転車と健康との優れた関係や、自転車利用者が増えることでかえって交通事故が減ること、自転車通勤を上手に進めるのためのポイントなどが明らかになりました。また、2021年、2022年にも体験事業者による意見交換会を開催しています。
【滋賀プラス・サイクル・シンポジウム】(2020.2.14)
CO2削減と健康経営に役立つ「自転車通勤」導入ガイド
【令和2(2020)年度 滋賀県自転車通勤体験事業 意見交換会】(2021.2.12)
自転車通勤を進めよう 気候変動対策・健康向上・業務効率アップに(オンライン開催)
【令和3(2021)年度 滋賀県自転車通勤体験事業 意見交換会】(2022.2.3)
自転車通勤を進めよう 気候変動対策・健康増進・業務効率の改善に
本事業は2021年までの3カ年で終了しました。成果として、自転車通勤の普及のため動画を制作しています。
2022年は日野町で「プラスサイクル体験事業」として、自転車通勤の導入および普及の支援を行っています。
4.持続可能なまちと交通をめざす再生塾
「NPO法人 持続可能なまちと交通をめざす再生塾」(NPO再生塾)は、まちと交通の抱える地域の問題の解決と地域再生に向けて、現場の取組を支援するとともに、地域を支える人材を育成する実践・研究団体です。
これまで滋賀での自転車まちづくりを中心に私は動いてきたのですが、公共交通分野にも範囲を広げようと、2019年と2020年にこの再生塾アドバンスド・コース(第12期、第13期)を受講しました。受講生はチームに分かれ、与えられたフィールドに足を運んで5カ月ほど研究し、改善に向けた提案を出します。
私は、2019年は利用者減に悩む西日本ジェイアールバス園福線で、2020年はコロナ禍での乗客激減にあえぐ阪神バスで、フィールドワークを体験しました。まとめた提案内容は、現場で実行に移されつつあります。
【第13期での学びの記録】
輪の国びわ湖推進協議会は「移動するときに誰もが自転車+公共交通を優先的に利用することで、将来に渡ってみんなが幸せになる社会」をビジョンとして2019年まで掲げていました。これは私のめざす持続可能な社会づくりと一致します。
滋賀がクルマ社会から脱却し、自転車と公共交通の便利な楽しく住みよいまちに変わるよう、活動を続けていきます。
自転車通勤シンポジウムにて(2020年)
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